助産師として働き始め、職業を聞かれた時に、「助産師」ということを伝えると「えぇ、すごいですね!」「私の妻がお世話になりました。」「助産師さんには感謝してる。尊敬だよ。」などと友人や他の職種の方から、尊敬の眼差しで見られます。
私は「いやいや、辛い痛みに何時間も耐えているお母さんこそが、私よりも本当にすごいよ。自分のことよりも赤ちゃんのことを大切に思っているお母さんこそが、本当に本当に尊敬だよ。」と思っています。
陣痛で24時間以上一睡もできず、痛みが強くなり、嘔吐しながらも、弱音一つ吐かずに「赤ちゃん大丈夫だよ。」と、身も心もボロボロになった状態で、お腹の中の赤ちゃんに声をかけながら、一生懸命、痛みに耐える産婦さんをみると、私も一生懸命産婦さんを支えたい、と自然に思えるのです。早く陣痛を終わらせてあげたい、元気な赤ちゃんに早く逢わせてあげたい、少しでも痛みを和らげてあげたい、と心から思います。「汗を拭いてほしい」、「お水が欲しい」、「ここをさすって欲しい」、などと言われなくてもサポートしてあげたい、陣痛がきたら走ってでも早く産婦さんに駆け寄り、一刻も早くマッサージをしてあげたい、と、頑張っている産婦さんを見ると、自然と産婦さんの気持ちに寄り添うことができ、身体が一生懸命動いているのです。この時点で、身を削りながらも赤ちゃんのために頑張る産婦さんのことが、私は自ずと大大大好きになっているのです。
出産のときは大絶叫、「痛いーーーーー!!!無理ーーーーー‼!!もう切ってーーーー!!!」と叫ぶ方もいますし、陣痛が来た時に、爪痕が残り赤くなるほど私の腕をぎゅーっと掴む産婦さんもいます。分娩台をどんどん、ガンガン、と殴る産婦さんもいます。
でも出産が終わると、陣痛中の苦しそうな産婦さんの人柄とはごろっと変わり、幸せオーラ全開で達成感に満ち溢れた表情の産婦さんから、出産直後「ありがとうございました。」「たくさんわがまま言ってごめんなさい。」、そんなことを言われますが、「全然気にしないでください。よく頑張りました。」とお伝えします。私は産婦さんのその笑顔を見るだけで、「よかったぁ~」と安堵します。
陣痛というのは、正気ではなくなるほどの強い痛みなのです。私はどんなにわがままを言われても、全然かまいません。赤ちゃんを出産するためには、人を狂わせるほどのそれだけ強いエネルギーが必要なんだと思っています。
それから、心の中で「赤ちゃんが元気に生まれてきてほしい」と願い、モニター(CTGモニター:赤ちゃんの心拍数と陣痛の波形が表示され赤ちゃんが元気かどうかが判断できるもの)を一生懸命見て、赤ちゃんのことを考えているうちに、産婦さんだけではなく、赤ちゃんにも愛着がわくのです。生まれたての赤ちゃんの顔を、産婦さんとパートナーの方の顔を見ながら想像し、「どっちに似てるでしょうね。」などと産婦さんとお話したりするのです。またお腹の中の赤ちゃんがしゃっくりをすると「しゃっくりしてますね。」と産婦さんと一緒に笑ったり、お腹を触らせてもらいながら、力強い胎動を一緒に感じさせてもらったりもします。産婦さんのことも、まだ見ぬ赤ちゃんのことも大好きになっている私。生れたばかりの赤ちゃんを見て「あなたがお腹の中にいた赤ちゃんなのね、かわいい。」と産婦さんと一緒になって喜びます。涙が出そうになりますが、ぐっとこらえます。
そして、助産師として仕事をする上でとても重要なお仕事が赤ちゃんをとりあげること、つまり分娩介助です。私は助産師歴10年以上ですが、今でも赤ちゃんをとりあげさせて頂いた時には、興奮や緊張が隠し切れず、手がプルプル震え、足がガタガタと震えます。他のスタッフにばれないように必死です・・・。
新生児蘇生についてしっかりと勉強をし、研修を受け、医師もいる状況ですが、何十回、何百回と赤ちゃんをとりあげさせていただいても、毎回プルプルガクガクしています。正直、周りの看護師、助産師や医師に震えていることを見られることは恥ずかさもありますが、これは、きっと赤ちゃんとママのことを大切に思っている証拠なんだ!!!!と私は開き直っているので今では気にならなくなりました。
きっとこれからもずっと震え続けるのではないかと思います。助産師の仕事の中では、赤ちゃんが出てくるときは、緊迫する瞬間です。赤ちゃんが元気に生まれて、ちゃんと自分で呼吸ができるのか、赤ちゃんの顔色は大丈夫か、それとも新生児蘇生が必要なのか、と元気な赤ちゃんかどうかが、ものの数分でわかり、処置を開始するかどうかを一瞬で判断しなければならない場面だからです。赤ちゃんが生まれてもほっ、と安心することはできず、赤ちゃんが泣き、自分でしっかりと呼吸ができ、酸素の濃度が正常となるまでは、力は抜けないのです。
このように、赤ちゃんが元気だということが証明されるまで、赤ちゃんが生まれる瞬間というのは、ドキドキハラハラしていますが、赤ちゃんを無事に出産できた、とママの満足そうな表情を見ると、私までも幸せな気持ちになります。
助産師としてお仕事をさせていただき、大変なことももちろんたくさんあります。緊急性のある対応をとらないといけないことが重なり、忙しすぎていっぱいいっぱいになることもありますし、生まれてきた赤ちゃんが元気がない状態だと、医療者の過失ではないとわかっていても、すごく悲しい気持ちになり、どのように産婦さんと赤ちゃんをサポートすれば元気な赤ちゃんが生まれてきたのだろう、と後悔することもあります。
そんな悔しい気持ちになることもありますが、それ以上に頑張っている産婦さんの力になりたい、赤ちゃんが元気に生まれてきてくれるようにサポートしたい、と思い助産師を続けることができていると思います。そんな風に私が頑張りたいと思えるのは、産婦さんが赤ちゃんのことを想いながら、一生懸命頑張っているからです。そして生まれて元気に泣いた赤ちゃんをみると、こんなにもうれしい気持ちにさせてくださって、私までも感動させてくれる、ママと赤ちゃんに感謝です。
助産師の仕事は大変さや責任の重さもありますが、女性が一生のうちに何度かしか味わうことのない幸福感を、私たち助産師は産婦さんやご家族と一緒に感じることができます。なんと幸せな職業なんでしょう。本当に幸せですしやりがいのある職業だと思います。
今回は助産師のお仕事、分娩介助についてお伝えしました。
あまり興味のない内容だったかもしれませんが、この記事で私が伝えたいことは、「助産師は産婦さんと赤ちゃんの一番の味方です。ママの嬉しそうな表情を見たり、元気な赤ちゃんに逢うために頑張っているんですよ。気を遣ったり遠慮せずに頼っていいんですよ。」ということを伝えたいです。
読んでいただきありがとうございました。
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