私が10年以上助産師としてお仕事をしている中で、よく相談されること、それが母乳育児についてです。妊娠、出産、育児をされる女性が、一番といっていいほど悩んでいること、それが母乳育児ではないか、と思います。
母乳育児について、母親学級で妊婦さんに問うと、何もイメージがわかない、あまり理解ができていない、という妊婦さんも多いです。
ここでは、出産後にママがどのような母乳育児を行いたいか、母乳のみをあげたい、母乳はあげない、母乳もあげてミルクも使っていきたい、など少しでも母乳育児について考えるきっかけになればいいなと思い、まずは母乳育児のメリット、デメリットをお伝えしたいと思います。
母乳育児のメリット
産後の回復を促す
授乳をするとオキシトシンという女性ホルモンが分泌されます。このオキシトシンというホルモンは、子宮の収縮を促します。子宮が収縮することで産後の出血が少なくなり、貧血を予防し産後の回復を促します。
ママが癌になりにくい
授乳していると、乳癌に関与しているエストロゲンといわれる女性ホルモンが低い状態が続くため、乳がんになりにくいと言われています。
妊娠回数が最も影響しますが、母乳育児により排卵が抑制され、卵巣がんの発症を低下させます。
ダイエット
完全母乳の場合は、1日に500kcalを消費すると言われており、暴飲暴食しなければ、だいたい6か月くらいで妊娠前の体重に戻ると言われています。
ママの情緒安定
授乳をすることによって、母乳を作るプロラクチンというホルモンがママから分泌されます。それにより、ママの気持ちは穏やかになり自尊心が高まり、ストレス緩和に良いといわれています。
顎の発達
哺乳瓶は弱い力でもミルクが出てきて、飲むことができます。しかし、母乳を飲む時は、口周りの筋肉をしっかり動かさないと母乳は出てきません。
口の周りをよく動かすことにより口周辺の筋肉が発達し、丈夫な歯を作る土台である顎が発達します。顎が発達すると嚙む力がつきます。
しっかりと噛むことで、脳へ刺激がいき、脳の発達を促し頭がよくなると言われています。
感染予防
母乳中に含まれるオリゴ糖は、下痢の原因となる大腸菌やカンピロバクター、中耳炎の原因となる肺炎球菌やインフルエンザ桿菌、HIV-1やインフルエンザウイルスなどの病原体が粘膜上皮に接合するのを抑制します。
母乳中に含まれるラクトフェリンは、HIV、C型肝炎ウイルス、ロタウイルス、RSウイルス、サイトメガロウイルス、ヘルペスウイルスなどの感染の第一段階でウイルス粒子に直接結合したり、細胞表面の結合部位に結合したりすることでその感染を防御します。
また、ママがインフルエンザに罹患し、ママの体内にインフルエンザの抗体ができます。するとその抗体がママから出る母乳を介して赤ちゃんに移行し、赤ちゃんがインフルエンザに罹りにくいというメリットがあります。
常在菌
母乳をあげるときは、ママと赤ちゃんがしっかりと密着します。ママの乳房と赤ちゃんの頬っぺたをしっかり密着させ、乳頭を深くくわえさせます。
ママと赤ちゃんの肌が触れ合うことにより、ママの皮膚に付着している常在菌(悪い菌を排除する役割を持つ)が赤ちゃんに付着し、赤ちゃんの感染予防にもつながります。
アレルギーになりにくい
母乳には免疫グロブリンであるIgAが大量に含まれ、アレルギーの発症を抑制していると考えられています。
生後6か月まで母乳だけで育てられた児は、有意にアトピー性皮膚炎が少ないという研究結果が出ています。
消化が良い
母乳中のアミラーゼ(主に膵液や唾液に含まれる消化酵素)は、赤ちゃんの体内でも活性を保つため、母乳栄養児は人工乳栄養児よりも消化の面で有利だと言われています。
母乳の胃内の半減期は47分で人工乳の65分に比べ、短いため消化が良いです。一方で、授乳間隔が短くなるため腹持ちが悪いとも言えます。
オーダーメイドの母乳が分泌される
早産児を出産した母親と正期産児を出産した母親から出る母乳は、構成成分の割合が違います。
早産母乳のほうが多くなる成分は、免疫グロブリン、抗炎症物質などの免疫物質、抗酸化物質が多く、妊娠後期に子宮内で獲得すべきものの多くを含みます。
抗酸化物質は慢性肺疾患や、未熟児網膜症に対する予防効果があります。
子宮の中で得られなかった、早産児にとっては特別な栄養が、早産をしたママからの母乳に含まれ、母乳を介して届けられ、早産児の成長の一助となります。
この早産児の母乳について、私が初めて知った時、私は母親の身体って本当に素晴らしいと思いました。
早産である22週0日で出産をされる方もいます。妊娠して6か月も経たない女性の母乳から、わが子が罹りうる病気の予防のために必要な母乳が出てくるなんて・・・
母親の愛情を感じ、母乳って素敵だな、母親って偉大だなと感じました。
経済的
ミルクを使うと、ミルクの粉代、哺乳瓶代、消毒セット、水道代、電気代、ガス代すべて合わせて1年間で10万円程度かかるといわれています。
ただし、赤ちゃんが飲む量は個性がありますので、金額は前後します。
また、ミルクのメーカーによって、ミルクの粉代は変わるため総額も前後します。
災害が起こった時
災害時には、清潔な水や温かいお湯が使えないことがあります。常温で使える缶のミルクもありますが、それも準備をしていなかった時には、適温で清潔な栄養を赤ちゃんにあげることができません。
しかし母乳育児であれば、ママが一緒であればいつでも清潔で適温の栄養をあげることができます。
外出時の持ち物が少なくて済む
哺乳瓶や温かいお湯を準備していなくても、授乳室があれば授乳することができます。もしくは、ケープなどがあればどこでも授乳ができます。
ママと赤ちゃんの愛着形成
授乳をすることで、愛着行動を促進する作用があるオキシトシンというホルモンが分泌され、ママと赤ちゃんとのつながりが深まり、絆ができると言われています。
母乳育児のデメリット
プライバシーの確保 授乳場所
最近は特にどこにでも授乳室を見かけます。しかし、授乳室がない、もしくは授乳室を探すことに時間がかかったり、外出前に事前に授乳室を調べたり、授乳場所を考えるなどの手間は少しかかるかもしれません。
哺乳瓶を嫌がりミルクを飲めないことがある
完全母乳であれば哺乳瓶を嫌がり、ミルクを飲めないことがあります。
それにより、パートナーや親など、赤ちゃんを預ける際、赤ちゃんがお腹を空かせると預かってお世話をしている人が大変になります。長時間赤ちゃんと離れることができなくなります。
頻回授乳となることがある
ミルクしか飲まない赤ちゃんであっても、よく泣く赤ちゃんもいて、赤ちゃんの個性にもよりますが、母乳は腹持ちが悪いためミルクよりはすぐにお腹が空き、泣く回数が多く頻回授乳となることがあります。
それにより睡眠不足となる可能性もあります(ミルクしか飲まない赤ちゃんであっても頻回に泣き睡眠不足となる可能性はある。個人差も大きく関係する)。
生後6か月以降は不足する栄養分がある
鉄、亜鉛、リン、マグネシウム、カルシウム、ビタミンB6は生後6か月以降、母乳中に不足するため、離乳食から摂取する必要があります。
排卵が抑制される場合がある
母乳育児をしていると、排卵が抑制されます(個人差があり、母乳育児であっても産後2か月から排卵が始まっていることもある)。
そのため、次のお子さんを妊娠しにくい場合があります。早く次のお子さんを妊娠したい場合には、断乳や卒乳をするという方もいます。
まとめ
今回は母乳育児のメリット、デメリットについて、私が以前より愛読している母乳育児の教科書「母乳育児支援講座」を参考にしながら、また私の経験をもとに書いてみました。
みなさんもよくご存じだったかと思います。
これを読むと、母乳は赤ちゃんにとっても、ママにとってもすごく良いことがわかりますね。
デメリットがなければ母乳で育てたいと思う方が多いのではないかと思います。
しかし、以前と比べ、いい意味でミルクよりも母乳がいいという方は減ってきているかと感じます。
妊婦さんがどのような選択肢を採るにしても、まずは母乳のメリットについて理解したうえで、愛するわが子である赤ちゃんへの栄養方法を決めてほしいと、私は思います。
ただ、実際はどうでしょうか。たくさんのメリットを挙げていますが、実際に母乳育児をしてみて、このような効果が感じられるのでしょうか。
私がどのように母乳育児をやっていたのか?母乳育児の実際、(実際の母乳の効果、メリットを感じることができたのか?)など、お伝えしていこうと思います。
読んでいただきありがとうございました。次の記事も併せてご覧ください。
参考文献:「母乳育児支援講座」水野克己 水野紀子著
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